参考資料 : アメリカの特別支援教育

アメリカでは、障害を持った子供が特別支援教育を受ける資格があります。 特別支援教育は、障害を持った子供のニーズを認識し、学習面や生活面での困難を少しずつ改善し、それぞれの子供が持つ力を発揮するための教育です。 0~3歳の子供は、特別支援を受けるために個別家族サービスプランが必要になり、3歳以上の子供には個人指導計画が必要です。

個別指導計画 Individualized Education Program; IEP(3~21歳)

個別指導計画(通称、IEP)は、発達障害などを持った生徒が学校で必要な支援、サービスを受けるための個別指導計画です。 個別指導計画には、生徒の現時点での学業成績や将来の目標、生徒が必要とする学校や専門家によるサービスの内容や頻度が書かれています。 個別指導計画の内容は定期的に見直され、生徒の学力が向上しているか、学習目標を満たしているかなどを定期的に測定し、必要に応じて変更します。

個別指導計画の主な流れ

1. プリリファーラル(事前リファーラル)

個別指導計画のプロセスは、リファーラル前の教育支援から始まります。 どのような教育支援を受けるかどうかは、その生徒の抱えている問題によって異なります。 この段階で、注意するべき点は下記の通りです。

(1) 生徒が抱えている問題や苦手分野を記録・説明する
(2) 通常学級内の教育支援や指導内容・評価基準の変更にどのような反応を示しているか
(3) 様々な教育支援方法の効果を判断・測定する
(4) 生徒の向上度を記録する

プリリファーラルの段階では、正式な障害の識別検査を行う前のスクリーニングを行います。 通常、特別支援教育への正式なリファーラルの前に、家族や教師陣が協力し合って、普通教室でどのようなサポートができるかを話し合います。 この段階では、生徒が普通教室で受けられる様々な教育支援方法を試し、その結果、生徒がどれくらい学力を向上させることができたかを測定します。 プリリファーラルは、特別支援教育を受けなくても良い生徒を判別し、不必要なアセスメントを避けるためにあります。

2. リファーラル(サービスの照会)
プリリファーラル期間中の教育支援による学力向上が見られなかった場合、生徒は特別支援教育にリファーされます。 出産前の健康管理に問題があった場合や、低出生体重児、幼児期に事故やトラウマを経験した場合、児童虐待を経験した幼児などはリスクが高くなりますので、特別なサービスを受けるようリファーラルを受けることが多いようです。 また身体障害など、外見から判別できる障害を持つ子供、年齢から判断して異常に発達が遅れてしまっている子供などは、比較的早く障害を見つけることができ、幼児期に早期段階で必要なサービスを受けることができます。 通常は、子供の障害が重度であればあるほど、判断がしやすく、早期に発見される可能性が高いようです。
3. アセスメント・障害の識別

リファーラル後には、個別指導計画の基礎データとなる知能検査や学力診断などを行います。 これらの検査や診断を総称して、アセスメントと呼びます。 このアセスメントを通して、生徒に障害があるかどうか、特別支援教育を必要としているかどうか、どのようなサービスを必要としているかを確認します。 アセスメントは、複数の教師陣、学校スタッフ、専門家などによって行われ、それぞれが専門知識を用いて、生徒の得意分野と苦手分野の診断を行います。 生徒が16歳以上の場合には、大学進学や就職に向けての職業能力に関するアセスメントも行います。

アセスメントでは、生徒の能力や発達段階が正確に認識できるよう、知能検査や学力診断の結果だけでなく、学校や家での行動パターンや、人付き合い、遊んでいる時のしぐさや言動などを細かく観察します。 このアセスメントを行った結果、生徒が障害を持っていないと判断される場合もあります。 その場合、その時点で個別指導計画のプロセスは中断され、その生徒は特別支援教育を受けずに普通教室内で教師のサポートを受けます。 生徒が障害を持っていると判断された場合は、今後の学力を測定するためのベースライン(基準値)として、アセスメント結果が使われます。 その後、個別指導計画が実施された後に、この最初のベースラインをもとに、生徒の学力がどれほど向上しているのかを測定します。

4. サービス受給資格の確認
アセスメントの段階で集められた情報をもとに、個別指導計画に携わるチームが、具体的にどのような特別支援サービス、関連サービスを必要としているのか話し合います。 もし、この時点で子供が障害を持っていないと判断された場合は、普通教室の教員が責任を持ってサポートを行います。
5. 個別指導計画の作成
プリリファーラル、リファーラル、アセスメント・障害の識別、サービス受給資格の確認を終えると、いよいよ個別指導計画の作成に入ります。 幼児の場合は、個別家族サービスプラン(Individualized Family Service Plan; IFSP)が代わりに適応されます。 16歳以上の生徒には、大学進学や就職に向けての計画も一緒に作成されます。 特別支援教育の資格がある生徒は、生徒の保護者と個別指導計画に携わるチームによって、指導内容、必要とする特別支援・関連サービス、普通学級もしくは特別学級に属するべきか、特別支援学校に行くべきかなどを決定します。 この決定を行う際に、事前ステップで行われたアセスメントの結果が使われます。 生徒がある程度の年齢に達している場合、もしくはこの個別指導計画の作成に参加することが適切だと判断される生徒の場合は、一緒に参加することもあります。
6. 個別指導計画の実施

個別指導計画が作成されたら、生徒はその個別指導計画に沿って、適切なサービスを受けます。 個別指導計画には、生徒にとって必要とされている授業のサポートや、教室でどれほど特別対応が必要とされているか、授業やテストの際に必要とするサポート、専門家から受けるべきサービスなどが書かれています。 普通学級で授業を受けていない生徒には、以降どのような方法でアセスメントを行い、学力測定をするのかも書かれていることがあります。

個別指導計画に書かれた生徒の学力目標などが、多少変更になる場合もありますが、その場合新しい個別指導計画を作成し直す必要はありません。 多少の変更であれば、個別指導計画の会議をせずに、決められた教育支援とサービスが続行されます。 ただし、生徒の学力目標、必要とするサービス内容、所属する学級や学校に変化がある場合は、生徒の保護者に書面での連絡が必要となります。 例えば、生徒が普通学級から特別支援学級に移らなくてはならないなど、大幅な変更がある場合は、あらたに個別指導計画の会議を開いて話し合います。

7. 個別指導計画の評価、見直し
「障害を持つ個人の教育法」(IDEA) により、作成された個別指導計画のすべてに責任が発生します。 ほとんどの州では、生徒の個別指導計画は毎年見直されます。 ただし、個別指導計画の見直しには、たくさんの書類作成が必要になり、教師や学校スタッフの負担になるため、アメリカの15の州では3年に1回だけ個別指導計画の見直しが行われます。 この個別指導計画の見直しの会議では、最初に設定した学力目標に生徒が到達しているかどうか、学力の向上をしているかどうかが議論されます。 生徒が学力向上してるかどうかは、テストによって診断されるので、教師陣は生徒の学力向上をどのように測定するのか、どのような課題が与えられるのかなど注意深く決定し、個別指導計画に記入します。 個別指導計画を必要とする生徒の年齢に関係なく、頻繁に生徒の成長過程が記録され、学力測定が行われます。 これは、毎年個別指導計画の見直しがされる場合も、3年に1回だけの場合も同様です。